『聴いて地獄見て地獄』2022年09月30日 08時35分35秒

<新作落語・素人ピアノ>

えー、お笑いを一席申し上げます。昔から「武士の商法」と申しまして、素人がお店をやろうたって、そう簡単にいくもんじゃありませんで・・・。

金:おや、万須の旦那じゃありませんか。
万:おお、ヤノピ(ピアニスト)の金蔵か、久しぶりだな。
金:聞きましたよ、会社を退職後、退職金をはたいて喫茶店をなさるとか、それよか、ジャズライブハウスをなさったらどうです、食事で儲かり、酒で儲かる。
万:しかし、ライブハウスとなると、ピアニストぐらいは置いとかないと。
金:それなら、私がやりますよ、料理を作って、リクエストがあればピアノを弾きます、なに、ギャラなんて形式的でよござんす。
万:そうか、そう言ってくれるなら頼もうか。

しばらしてジャズライブハウスをオープンしまして、初日、二日は料理にピアノにと、真面目に働いていた金蔵ですが、なにしろ酒の上が悪い、三日目には、酔っぱらって客と喧嘩して出て行ったまま戻って来ないってんで・・・。

妻:どうするんですの、金さんが居ないんじゃ、料理も出来ないし、ピアノ演奏も流せないし、だから私は喫茶店がいいって言ったのに。
万:今さらそんなことを言ってもしょうがないだろ。そう思うんなら、客が来ないようにお祈りでもしてなさい。
妻:そんなことを・・・あ、お客様が来ちゃった、あなた、どうするんです。
万:来ちまったものはしょうがない、こうなったらお前、なんか料理を作んなさい、私はピアノを弾くから。
妻:え、あなたが?触ったこともないのに?
万:しょうがないだろ、えー、ご来店ありがとうございます、では1曲、
”ガガ~ン、ポロポロ、ピンピロピーン、ギャンギャラガーン~”
妻:ちょっとあなた、お客様が迷惑そうな顔でご覧になってますよ、このまま弾き続けるんですか?
万:わしにも分からん、前に回って客に聞いてくれ!

そこで本日の一言、
『聴いて地獄見て地獄』

参考:古典落語「素人鰻」