短編SF{2021年のライブハウス}2020年08月03日 22時00分00秒


「あれ、こんなところにライブハウスあったっけ。ちょっと入ってみるか。入り口がここで、ここが受付か、あの、すみません」
「はい、いらっしゃい、お一人ですか」
「ええ、一人ですけど」
「じゃ、書類を作るからそこに掛けて・・・ズボッと立ってないで座って」
「え、書類を作るって、ライブを聴くのに?」
「当然でしょ。マイナンバーカードは?持ってない、じゃまず名前、ふんふん、それから住所、生年月日、連絡先、家族構成」
「ちょっと待ってくださいよ、そんなのまで要るんですか」
「当たり前でしょ、それからどうやってこの店を知ったか、『SNS・ユーチューブ・友人の紹介・通りがかり』のうち、通りがかり、ね、危険度4、と」
「危険度4ってなんなんすか!?」
「はいはい・・じゃ、このファイルを持って奥の部屋で健康診断を受けて戻って来て」
「健康診断?!どうなってんだ・・・はい、行って来ましたよ、次は!」
「何をカリカリしてるの。診断結果、それと、あなたの好みのジャンルはっと・・・じゃ、右の567番の部屋に入って」
「どうなってんだ、このライブハウス。えーっと567番の部屋って、ここか。あれ、客がバラバラに離れてる、人気がないのか。バンドの名前は、”アボイド・スリー”?、あれバンドのメンバーもステージでバラバラだ。だめだこりゃ・・・ちょっと受付の人、どうなってんの、このライブハウス!」
「あ、お客さん、楽しんで頂いたようですね」
「え、どこが楽しいの!バンドはステージでバラバラだし」
「あれ、分かってないな、バンドの名前の”アボイド・スリー”のとおりでしょ、つまり三つ(密)を避けてるんですよ」
「なにそれ?」
「それに個人情報の提供、通りがかりだから身元不明で危険度1から5のうちの4、健康診断提出、客と客の間隔は広い、全部揃ってるでしょ」
「だから、なんなの」
「え、お客さん、店の看板見てないの、ほらよく見て」
客が看板をよく見ると、そこに書いてあったのは・・・
『日本政府公認コロナ完全対応・ライブハウス567』