一幕芝居 「神々の深き悩み」2018年03月22日 16時30分30秒


一幕芝居 「神々の深き悩み」
<出演>
恵比寿、大黒天、毘沙門、弁天、布袋、福禄寿、寿老人の七神

<幕が開く。神社の奥まった板張りの広間に、七柱の神様が輪に なって座り酒宴を開いている。いろんな酒のビンやカンが用意され、神様の前には盃が置いてある。長時間の酒盛りで、全員がかなり酩酊している>

恵比寿:「おーい、みんな飲んでる?・・・ジャンジャン飲んでよ。 正月、人間どもの勝手な願いを聞くんで大変だったんだから、今日ぐらい飲まなきゃ、ね。 ちょっと、そこ何もめてんの、え、大黒は帽子を取らないから失礼だ?しょうがないでしょ、制服だから。おや弁天様、いつもお綺麗でいらっしゃる。ちょっと踊って みせて、ち・や・う・だい・な~、なーんてね。」
毘沙門天:「おい恵比寿、そりゃセクハラだぜ。だいぶ酔ってんじゃねえか」
弁天:「いいんですのよ。それより布袋様、奉納の時の音楽、お聴きになりました?」
布袋:「音楽っていうと?」
毘沙門天:「そうだ、ラジカセだった。神様を迎えるのにCDにラジカセってのはねえだろ。 俺ぁ、槍で突き刺してやろうかと思った!」
福禄寿:「おいおい、乱暴はいけねえが、それにしてもCDとはな。昔なら考えられない」
寿老人:「ありゃなにかね、雅楽の生演奏を出来る人間がいなくなっちゃった、ってことかね」
福禄寿様 「そうでしょうねえ。雅楽の楽器てのは、そんなに難しいのかね」
弁天:「その原因というのが、友達の伎芸天様が言ってたんですけど、近ごろの人間は、音感がおかし くなってるんですって」
大黒天:「へー、音に対して鈍くなったとか?」
弁天:「それが逆ですって。ほら、ピアノって、人間が作った楽器がございますでしょ」
大黒天:「ああ、白と黒の鍵盤が並んでるやつ」
弁天様 「ええ、あんなふうにきちんと並んだ音程の感性しか無くなってるってことらしいの」
毘沙門天:「ふーん、よく分かんねえな」
恵比寿:「つまりだ、音ってのは無限の広がりを持っているのに、それを下のドから上のドまでの間隔を12の音に固定しちゃった、てことだよね、弁天様」
毘沙門天:「おい、恵比寿、俺は弁天様に聞いてんだよ。横から口挟むねえ」
恵比寿:「なんだと毘沙門。そういやお前、さっき俺の鯛の半身食いやがったろ」
寿老人:「二人とも止めなさい。なるほど、固定された音しか使わなくなったから、ピアノの音階に無い日本古来の音程が理解できない、ってことか」
大黒天;「そやけど、地方の音楽なんかには、まだまだ自由な音感が残ってまっせ」
毘沙門天:「そういや、ジャズのブルーノートも、出来立てのころは微妙な感覚の音だったよな」
恵比寿:「そうそう、マイナーとメジャーの中間のような、あの微妙なブルース感覚が、 なんともいいんだよな。特にトロンボーンのかもしだすブルーノート、たまらんなあ」
毘沙門天:「わかってるじゃない恵比寿様、おーい、恵比寿様にもっとエビスビール持ってきて」
布袋:「ピアノはブルーノートはどうするんでっか」
弁天:「例えばミとミの半音下がりをいっしょに弾いたり、ずらしたりして出すらしいんですの」
寿老人:「ほんに、あのころのジャズのサウンド、懐かしいわい」
弁天:「もっと自由な音感が、人間に戻るとよろしいんですのにね」
恵比寿:「じゃ、二次会はジャズライブハウス『ANOYO』にしましょうか。えーと、ライブの予定は・・・サッチモのラツパに、デュークエリントンのピアノか。 ん?・・ヒノテル、ナベサダ?あれ、この二人まだ現役でしょ?」
弁天:「よく見てくださいまし。右肩に『近日来演』って 書いてございますでしょ」
恵比寿:「あ、ホントだ、ハハハ・・・。じゃ皆さん、ライブハウスでもうひと盛り上がりしましょうか」
全員「いいねえ、行こう行こう」

<立ち上がった神様たちの姿が少しずつ薄くなっていき、やがてスーッと消える。後には広間の静寂さが残り、ゆっくりと幕が降りる>

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